「夜叉ヶ池」は鏡花氏の戯曲のうちで最も上演される機会が多い。読んでわかりやすく、映画はもとより少女マンガにさえなっていると聞く。
だが私は本作においてもモノガタリのオモシロサより、思想としてのドラマを描きたい。なに、大層なことを言っているつもりはない。鏡花氏のすべての作品に通底している俗悪で理不尽な<ニンゲン>への嫌悪と、正しく美しい〈自然なるもの〉への賛美に深く共感したいのだ。
会場となる十五周年のウイングフィールドさんの、小空間での上演もそんな心意気のなせるわざであり、私たちの思想の表われでもある。
<企画と演出意図>
近代戯曲の傑作を、新劇でも新派劇風でも歌舞伎風でもなく、革新的な現代演劇として再生し、21世紀の今、上演する意義を問い直したい。
物語の展開よりも<ニンゲン>存在の意味の探求と、<ニンゲン社会>と<自然界>との対立概念をより明確にし、今ある日本社会の矛盾や荒廃をあぶり出す。
また、なにもない舞台、小道具も使わず、俳優の音声と身体をたよりに<ドラマの本質>をより際立たせる独自の演技スタイルで上演される。<フェード・インの演劇>と名づけられた独特の方式で、全出演俳優が、(基本的に)常時舞台エリアで<演劇の時間>を共有する方式をとる。
オリジナル戯曲に忠実に、一切の改変を加えないでの上演であることを付記しておきたいと思います。